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長野 観光振興は、ひとづくり・まちづくり

2018年12月13日更新

 叫ばれるようになって久しい「インバウンド」。外国人観光客数の増加は著しいものの、地方への波及効果はまだまだ大きくありません。そんな中、インバウンドで長野県白馬を盛り上げようと奮闘しているのが今回取り上げる「WAKUWAKU やまのうち」です。インバウンド対策として一般的な取り組みはソフト面での対策ですが、ハード面の整備にも力を入れているのがWAKUWAKU やまのうちの特徴。地方創生として観光に取り組む上での大切な視点とはー。

PickUp記事:「外国人客を呼び込め、伝統の温泉街ににぎわい 「WAKUWAKUやまのうち」(長野県山ノ内町、第8回優秀賞)」(47NEWS2019.07.20)

日本の成長戦略の柱になりつつある「インバウンド」

 日本政府は、GDP(名目国内総生産)600兆円の達成に向けて、平成28年に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」での新たな観光ビジョンを掲げるなど、国の新たな成長戦略として日本を訪れる外国人市場である「インバウンド」を強力に推進してきました。

 「爆買」「DMO」などのキーワードが出てくるなか、日本に訪れる外国人観光客の数は年々増加し、2018年6月の訪日外国人数は2,705,000人と前年同月比で15.3%増加など、インバウンド市場全体は堅調な成長カーブを描いています。

東京・大阪・京都以外の地方都市に如何に外国人観光客を呼び込むか

一方、訪れる外国人観光客は東京・大阪・京都などの観光地が中心で、地方への外国人観光客の波及はまだまだはじまったばかり。地方創生が声高に叫ばれ、政府肝いりで地域共同の観光地作りを行うDMO(Destination Management Organization)などの設立を後押しするなどの対策が実施されています。 前述のDMOについては、本来の設立目的としては自治体や観光協会など「官主導」の観光振興から脱却して「民間主導」で地域の稼ぐ力を引き出すというビジョンがありました。

しかし現状は観光協会と同じような体制・役割になってしまっている事例も多く、まだまだ突き抜けた成功事例は少ない状況。 地域として外国人観光客にターゲットを絞った戦略を描き、「民間主導」で新たなまちおこしを行おうとした事例が、今回取り上げた記事で紹介した長野県山ノ内村で活動するまちづくり会社「WAKUWAKU やまのうち」です。

(出典:日本政府観光局)

独自の収益源を確保するための事業展開を積極的に推進

まちづくり会社「WAKUWAKUやまのうち」の取り組みとして特徴的なのが、地域の遊休物件をリノベーションし観光地としてのハード面の整備に積極的な点です。これまでの観光協会的な発想では、既存観光スポットのプロモーションというソフト面の整備を優先する傾向がありました。

観光をビジネスとして考えた場合、如何に地域に訪れた観光客にお金を遣ってもらえるかが特に重要となります。全国でも有名な観光スポットを擁する景勝地が、近隣に宿泊するホテルや飲食店の整備が遅れているために観光客がまったくお金を落とさないという例も存在しました。WAKUWAKUやまのうちでは、外国人観光客の注目を集める「スノーモンキー」というアイコンとなるコンテンツの後にまちあるきとして楽しんでもらえる環境作りを進めています。

遊休物件のリノベーションには、地域で事業を行いたい経営者人材への支援のための投資ファンドを設立して、事業計画書の作成、物件取得、設計・施工などのハード立ち上げの支援から、集客・店舗オペレーションや総務・経理・人事などの事業安定に向けた支援まで多岐にわたります。「観光」という切り口を通して新たな地域事業者を発掘・育成することも重要なテーマになっています。

観光振興には地域の理解とまちづくりまで裾野を広げることが不可欠

地域の商店街など、旧来の店舗や事業者単体だけではなかなか対応できなかった上記のような経営改善も、地銀などの協力を得ながらWAKUWAKUやまのうちが新たな地域事業者を支援し、地域を巻き込んでいる新たな動きです。

このような、地域を巻き込んだ事業展開には、必ずといっていいほど地域の理解が必要となります。観光振興のために地域でサイクリングコースを開発したが、自転車が増えることでの事故や、観光客が落とすゴミが増える、自分たちの商圏を荒らされる、などの地域の懸念やハレーションによって観光地としての整備が進めにくい、というDMOが抱える課題もあります。WAKUWAKUやまのうちでは、月に1回「まちづくり委員会」を開催し、旅館の社長・女将、不動産屋、地銀支店長、地域事業者、農家、地元の若手メンバーなど、地域の方々や専門家が会し、意見をすり合わせる場を定期的に設けています。地域の理解を得ながら地域に根ざした活動が、徐々に地域に知られていき、協力者を増やしていると推測されます。

このように、「観光」と一口に言っても単純に観光地のPRをすればよいというものではなく、どこの観光客をターゲットにして、どこに来て見て食べて体験してお金を落としてもらうのか、その場所はだれがどう作っていくのか、そのための地域の協力をどう引き出すのか、という視点が不可欠に思えます。

日本政府が掲げる「観光立国」は、「地方創生」とワンセットで取り組まなければ成功はありません。そのためにも、地域で新たな役割を担う観光まちづくり人材の育成が急務です。

加えて、「観光は観光業だけで考える」という時代ではなく、飲食・食品・不動産・建築など、様々な業種の垣根を超えて、「この地域を良くして、この地域自体を売っていく」必要があります。ひとづくり・まちづくりが、今後の地域を形作っていきます。