2020年01月06日更新
有給休暇取得率が世界で最下位の日本。価値観・生活スタイルの多様化、産業イノベーション・地方創生の推進から、働き方改革が政府主導で進められています。その中で生まれ流行語となっている「ワーケーション」「ブリージャー」「二拠点居住」「デュアラー」という言葉。
それでは、それらの言葉が意味するものとは?働き方改革がもたらす地方創生の可能性とはー。
PickUp記事:「リゾートで仕事「ワーケーション」に商機 働き方新時代」(FNN PRIME8月9日)
「働き方改革」とは、働く人々が、個々の事情に応じた多様な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革のことをいい、「一億総活躍社会を実現するための改革」といえます。
この改革の背景には、少子高齢化により、日本の労働人口が減少に転じていることがあります。
戦後、経済成長が継続されることを前提とした社会システムが構築されてきたため、その社会システムを維持するためには、個々人の能力が最大限発揮されることが必要となります。そして、個々人の能力が最大限発揮されるためには、各々の価値観や生活スタイル、事情に対応した働き方ができる社会へと移行することが必要となるため、多様な働き方の実現に向けた改革が官民を通して進められています。
一方で、働き方が多様化することで、勤務管理、情報セキュリティ管理、給与計算などが難しくなるとの課題も指摘されています。
そんな働き方改革の中で登場してきたのが、「ワーケーション」「ブリージャー」「二拠点居住」「デュアラー」といった言葉です。
セールスフォースの南紀白浜サテライトオフィス内の様子
(引用:Future is now)
まず、ワーケーションとは、一般的には、Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語で、簡単に言ってしまえば、オフィスを離れ、リゾートなどで休暇を過ごしながら働くことを意味します。オフィスから離れたところで働くという意味では、リモートワーク、テレワークと同じですが、ワーケーションは、リゾートなどの休暇先で仕事を行う点に特徴があります。
そして、Vacationの他に、Location(場所を変え)、Motivation(動機付けをし)、Communication(対話の中で)、Innovation(革新を起こす)といった意味合いを込めワーケーションの推進を図っているのが今回の取り組み。三菱地所が「Work×ation Site 南紀白浜」と銘打ち、ワーケーションオフィスを運営しています。初年度は企業の視察が200社以上訪れ、1日10万円という易くない賃料にもかかわらず、13社の企業誘致に成功しています。さらに取り組みの勢いは増し、年内に3拠点程度の開設を目指しています。
ワーケーションには、例えば、ハッカソン(SEが合宿形式で短期間、集中的に仕事をするもの)や研修合宿、有給休暇消化型など、様々な働き方が存在します。
ワーケーションを企業が取り入れるメリットは、社員が新しいアイディアを思いつきやすくなること、満員電車などの通勤のストレスから解放されること、生産性が高まることなどが挙げられます。生産性に関しては、ある統計では20%向上したとの発表も存在します。
では、地方創生との観点からは、地方自治体がワーケーションを推進することにどういったメリットが存在するのでしょうか?
まず一つに、ワーケーションにより訪問者・滞在者が増えれば、地域に消費が生まれる点が挙げられます。地元の経済が活性化することに結び付きます。
第二に、地元雇用が生まれるという点が挙げられます。南紀白浜町では、地元雇用1人行うにつき30万円の補助を企業に与え、初年度で上記13社中11社が合計90人以上の雇用を生みました。
第三に、地元に雇用が生まれるということは、仕事を求めて地域外に出ていった若者が地元に戻ってきやすい環境ができることになり、Uターンや移住の促進につながります。何と言っても若者にとって地方に足りないのは仕事・就職先であるため、このことが一番大きな効果と言っても過言ではありません。
第四に、ビジネスは人と人の出会いから生まれるものであるので、ワーケーションの取り組みを行う企業が地元企業と親しくなることで、新たな事業・ビジネスが生まれる可能性があります。
第五に、東京の先進的な情報が地方に伝達しやすくなる点が挙げられます。IT社会でネットで情報が一瞬で世界中に伝わる環境になっても、人と人の会話の中で伝わる情報が一番密度が高く熱が伝わりやすいものです。そういった意味で、東京に本社を置く企業のサテライトオフィスが地方に存在するということは、東京と地方の情報格差を縮める効果が期待できそうです。
ワーケーションの他にも、様々な働き方が生まれてきています。
冒頭に挙げたブリージャーとは、Business(ビジネス)+Leisure(レジャー)を組み合わせた造語で、「出張休暇」と訳されています。これは、ワーケーションよりも短期の出張の機会を利用して観光などのレジャーを楽しむことを指します。これまで出張からとんぼ返りしていたビジネスマンが、「出張ついでの観光」をすることで、地方にお金が落ちることが期待されています。
次に、二拠点居住とは、都市部と地方部に2つの拠点を持ち、定期的に地方部と都市部を行き来するライフスタイルのことを言います。デュアラーとはその二拠点居住者のことを言います。この二拠点居住は、政府も推進するもので、ワーケーションと同様に、新たな人材が地域に入ることにより、コミュニケーションの活性化や交流人口増加による地域内の消費額の増加が期待されています。
そして、サラリーマンの副業解禁も大きな働き方改革のように思えます。副業が解禁されたことで、地方起業が求めているスキルを持った人材を首都圏から今までよりも容易に招聘することが出来るようになり、実際に地方起業と首都圏の人材をマッチングするサービスも生まれています。これを上手く活用すれば、地方企業がノウハウ・スキルを得ることで売り上げを伸ばし発展する可能性を秘めています。
(引用:和歌山県HP)
今回見てきたように、一つの場所に縛られない働き方というのがどんどん増えつつあります。IT技術の発達や移動手段の発達にとって、そういった働き方がますます容易になっていくことでしょう。
逆に言えば、これまで一つの拠点にとどまるように強制していたものは、仕事によるものだったことになります。技術が新しい働き方を可能にするならば、制度も技術に合わせて柔軟に適応させていくのが最も合理的ではないでしょうか。
今回取り上げた事例の他にも、ワーケーションに力を入れているのが長野県です。同県では2018年度からワーケーションを本格的に推進する「信州リゾートテレワーク」を開始。同県信濃町には、「ノマドワークセンター(NWC)」がオープンしました(ノマド:英語で「遊牧民」の意味で、最近では場所に縛られず移動しながら働くスタイルのことを指す)。NWCは、信濃町が町内にある農業交流施設をリノベーションして開設し、NPO法人Nature Service(埼玉県坂戸市)が運営しています。集合研修やリモートワーク、ノマドワークが出来る施設となっています。その他にも、3Dプリンターやドローン・自走車を実際に動かせるフィールドを準備し、若者の起業を支援するインキュベーション機能も担っています。
このように、地方の起業家と首都圏の大企業とを繋ぐ機能もワーケーション施設は担う可能性があります。
都会の高層ビルオフィスを離れ地方でワーケーションをすることで、生産性が向上し地方が活性化するといいですね。
この取り組みはまだ一部で始まったばかりです。どのように発展していくか楽しみです。