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福岡 空港民営化による利便性向上で、「空の自由化」を勝ち抜く

2019年08月19日更新

「空の自由化」や「オープンスカイ協定」という言葉をあなたも耳にしたことがあるのではないでしょうか?インバウンドで盛り上がる昨今、空からの誘客の重要性が増しています。そして、訪日客を出迎えるのもお見送りするのも、空港になります。そこで、今回取り上げるテーマは「空港の民営化」。果たして、空港にはどのような課題があり、それを解決するためにどのような取り組みが行われているのでしょうか?空港を民営化することで期待される効果とは。民営化後の空港運営で重要になってくるポイントとはー。

PickUp記事:「福岡空港、民間運営始まる 30年後100路線就航を目指す」(福岡経済新聞2019.04.02)

ほとんどの空港が赤字経営

 日本には97もの空港が存在しますが、その管理主体により、会社管理空港、地方管理空港、国管理空港の3つに大きく分類されます。

 会社管理空港は、国が出資する管理会社が運営を行うもので成田国際空港、中部国際空港がそれにあたります。そして、地方自治体が運営するものが地方管理空港、国が運営するものは国管理空港と呼ばれます。

 2013年においては、64の地方管理空港全てが赤字で、合計で155億円超もの税金がその補填に使われました。また、2015年の統計では、国管理空港の27のうち23が営業損益において赤字となっており、羽田と新千歳の収益で他の空港の赤字を補填する形となっていました。

成田国際空港

(引用:Wikipedia)

空の自由化”で求められる空港の活性化

赤字運営が続いていた中、民主党政権が行った事業仕分けにおいて、国管理空港が用いる空港整備勘定(数少ない黒字空港の収益と税金で他空港の赤字を補填する勘定方法)が問題視され、収支改善の検討が行われました。その中で「空港の民営化」も検討されました。

一方で、 2009年12月に米ワシントンで開かれた日米航空協議において、日本はアメリカとの間で「オープンスカイ協定」の締結で合意しました。オープンスカイ協定とは、航空会社の路線や便数、乗り入れ企業、運賃など、航空協定で決める規制を撤廃(自由化)し、自国の空港を広く開放、人・物の流通を促進し経済効果を高めようとする政策のことをいいます。

“空の自由化”が行われることで、自国の航空会社は厳しい国際競争に晒されることになりますが、その競争には、空港の発着料等のコストダウンが大きなキーポイントとなり、空港運営の効率化が大きく求められるようになりました。

空港民営化で期待される効果

空港の民営化によって、なにも空港運営効率化による赤字解消だけが期待される効果ではありません。

現在日本政府は、観光立国を掲げており、民営化により利用しやすい空港を実現することができれば、外国人旅行客の呼び込みも上手くいくようになります。その旅行客に日本製品の良さを感じ取ってもらえば、物の輸出も増えるようになります。つまり、人と物の移動が増えることにも寄与する。さらに、空港運営の効率化により航空機による物の輸送費が下がれば、空港周辺に高単価製品工場の立地増加にも繋がり、雇用が生まれ、引いては住民の増加にも繋がります。

このように、空港民営化による運営効率化が達成されれば、大きな波及効果が期待されます。

参考にしたのはゴールドコースト空港(豪)

我が国の空港に関連する施設は、これまで別々の主体が管理・運営を行ってきました。管制、滑走路、空港ビル、駐車場、物販・飲食施設などは、国、第三セクター、民間企業など別々の主体が運営管理を行っていたため、バラバラな経営方針の元、全体としては非効率な運営となっていました。

そこで、この非効率な運営を改善すべく、国が空港民営化の参考にしたのがゴールドコースト空港です。この空港の経営戦略は、空港関連施設を一体的に管理し、着陸料などの低廉化を行うことでLCC等の誘致を積極的に行い、旅客数・路線数の拡大を図り、空港内での飲食・物販などで収益を確保することを狙っています。つまり、航空系事業については収益を上げることにこだわらず、非航空系事業で収益を上げる方針です。実際にこの空港は、2003年から2008年にかけて、旅客数及び収入がともに約3倍に増えています。

ゴールドコースト空港

(引用:ゴールドコースト空港資料・HP)

福岡空港の民営化は3例目

今回取り上げた福岡空港は、年間旅客数2,400万人が利用する国管理空港でしたが、2016年7月1日の仙台空港、2018年4月1日の高松空港に続いて、国管理空港としては3例目の民営化となりました。

具体的な民営化の仕組みは、ゴールドコースト空港の例に倣い、国が土地などの所有権を留保しつつ、民間に運営権を設定・売却し、管制を除く航空系事業と非航空系事業を一体的に民間が運営することになっています。運営権については、原則30年の期間が定められています。このような仕組みは、コンセッション方式と呼ばれています。

空港民営化概要

空港民営化の流れ

(引用:国土交通省「空港経営改革について」)

日本における空港民営化の事例

(1)関西国際空港

日本の空港民営化で知られた事例として、まず関西国際空港が挙げられます。関西国際空港は会社管理空港でしたが、2016年4月からオリックスが40%、仏のヴァンシ・エアポートが40%出資した純民間企業の関西エアポート株式会社が運営を行っています。

インバウンド需要の伸びに伴い、年間旅客数及び売り上げは順調に伸びている一方、台風による滑走路冠水の際には対応に滞りが見られ、国が主導で空港再開に向けた対応に当たり、改めて民営化の是非が問われる事態になりました。

(2)仙台空港

国管理空港の民営化として初の事例になったのが仙台空港です。仙台空港民営化は、東日本大震災からの復興の起爆剤として、2016年7月1日から運営がスタートしました。

仙台空港は、利用者の利便性の向上、東北ブランド発信の向上のため、飲食店、外国人向けの礼拝室、トイレなどの施設の充実を図っています。飲食店や物販にかんしては、地元の特産品の取り扱いに力を入れています。

また、物流に関しても、貨物取扱量の目標を掲げ、2015年度の0.6万tから2044年度には2.5万tに増やすとしています。しかし、東北の人口は今後30年間に大幅に減ることが予想されているため、東北産品の輸出を増やそうと、「創貨事業」に力を入れています。

さらに、仙台空港は、LCC拠点化に向けた取り組みや二次交通の充実に向けた取り組みに積極的で、こちらも順調に年間旅客数及び売り上げを伸ばし、営業損益の黒字化を民営化後2年度目に当たる2017年度に早くも達成しています。

仙台空港会社は、東急電鉄、前田建設工業、豊田通商、東急不動産などが出資し、議決権比率で東急グループが半数を超える54%を占めています。

仙台空港の物販店・輸出用ホタテ

 

(引用:仙台空港Facebookページ)

意思決定スピードが命

空港は、重要な移動・輸送手段だ。安全・安心な航空機の運航の為に、空港の円滑な運営が重要です。また、災害などがあった際には、航空機の運航再開を行えるように、空港機能の再開に向けた柔軟な対応が求められることになります。

他方で、利用者の利便性向上のために民営化を行うので、利用者のニーズに素早く・柔軟に対応できなければなりません。

すなわち、民営化された空港の運営には、意思決定スピードが重要となります。

この点、意思決定スピードが速いかどうかを測る1つのポイントになるのが、会社の出資比率です。過半数を超える議決権を有する株主が存在すれば、通常業務に関する事項については、安定的にスピーディーに意思決定を行うことができます。

前述した関西国際空港を見ると、過半数の議決権を有する株主が存在せず、オリックスとヴァンシ・エアポートの議決権割合は同じであるため、主導権を強く握れる主体がおらず、意思決定が遅いものと推測されます。実際に、民営化前よりも意思決定が遅くなったとの声も聞かれるようです。それでは民営化を行った効果は半減してしまうでしょう。

空港の民営化は、各社の強みを活かすため、企業連合で申し込みがなされ選定されることが多いですが、運営会社設立の際の出資比率についても注視することが必要かもしれません。

自治体の陳情で就航本数を増やす時代は終わった

従来、都道府県などの地方自治体が、自らの地域に空路で人を呼び込もうとすれば、航空会社に伺い増便をお願いする陳情や、就航に対して補助金を付与するインセンティブを用いることが多いものでした。そのため、需要と供給にゆがみが生じ、利用者のニーズに合わない運航も存在していました。

しかし、空港の民営化が狙い通りに進めば、需要の無いところに供給は行わず、需要が増えれば供給が増える正しいかたちに戻るでしょう。そのため、空路により人を呼び込もうとする地方自治体は、陳情や補助金ではなく、人を呼び込むための「需要作り」に力を入れることになります。例えば、観光コンテンツ作りやMICEと呼ばれる学会や会議などの需要作りがそうです。

すなわち、各地方が健全なかたちで地域の魅力づくりに向けた競争を行えば、地域の魅力に溢れた日本になっていくはずです。それが正しい地方創生の在り方のように思えます。