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長崎 HTBにIR(統合型リゾート)を誘致で、雇用・交流人口増加を狙う

2019年09月02日更新

ラスベガス、マカオ、シンガポール・・・この名前を聞いて多くの人がカジノをイメージするのではないでしょうか。そのカジノを含めたリゾート運営を長崎のハウステンボスで行おうというのが、今回取り上げる取り組み。それでは、カジノを地方で運営するメリットとは?ハウステンボスが誘致を狙う意図とはー。

PickUp記事:「 「長崎IRに4000億円投資」 マリーナベイ元社長名乗り」(西日本新聞2019.06.01)

長崎市の人口転出超過数はワースト1!?

長崎の夜景

 今回取り上げた事例の長崎県は、人口が約130万人で、数多くの島嶼を含み、47都道府県で最も島の数が多いです。離島の人口はピーク時の6割減となっています。1950年から2015年の間の生産年齢人口減少率は、九州の中で最も高く、日本全体でも5位となっています。また、長崎市を見ると、2018年の人口転出超過数は、日本全国でワースト1になっています。このことは、需要と供給の両面から地域経済に大きな影響を与えています。
 そして、長崎は「坂の街」としても有名で、三方を山に囲まれたすり鉢状の地形。山の斜面に住宅地が造成された珍しい土地です。長崎市の斜面市街地(10度以上の傾斜度)割合は、市街地全体の43%(10度以下の坂も含めると約7割と言われる)と、非常に高いです。少子高齢化や数少ない平地への人口集中が相まって、傾斜地の空き家が増えています。
 一方で、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産登録されたことや、ハウステンボスを始めとした観光名所が数多くあることにより、観光客数は増えています。

(引用:長崎県広報平成30年度3月版)

ハウステンボスにIRを誘致へ!

長崎HTB(ハウステンボス)

今回取り上げたのは、長崎県と同県佐世保市がハウステンボスへIRの誘致を行うという取り組みです。IRとは、 Integrated Resortの頭文字で統合型リゾートと呼ばれ、カジノのほかホテルや劇場、国際会議場や展示会場などのMICE施設(Meeting:会議、Incentive:招待旅行、Convention:大会・国際会議、Exhibition:展示会の略) 、ショッピングモールなどが集まった観光振興に寄与する複合的な諸施設のことをいいます。現在、国際競争力の高い滞在型観光の切り札として脚光を浴びています。さまざまな商業施設を展開することでビジネスからレジャーまで多くのタイプの旅行客が宿泊可能なため、カジノ目的の人以外にも多くの集客が見込めるのがIRの特徴です。
自治体がIRを誘致することのメリットは、大規模な土地・不動産の開発、多額の投資が行われるため、地域の経済が活性化することがまず挙げられます。また、IRを目的として国内外からの集客が見込まれ、地域内での消費が大幅に増えることになります。そのことにより、地域の雇用が増えるため、若者の流出を防ぎ、人口の流入が増えることが予想され、過疎化への歯止めとなります。そして、経済活性化による自治体の一般的な税収が増えることに加え、カジノ売上に関する特別な多額の税収が見込まれます。
なお、ハウステンボスは一時期業績が落ち込み、改革を実施したことでV字回復を果たしましたが、昨年は再び減収減益となったことで、新たなてこ入れが必要となっています。
そのため、IRの誘致が成功に至れば、長崎の経済活性化に大きな刺激となります。

大阪IRイメージ画像

(引用:長崎県広報平成30年度3月版)

ところがライバルはたくさん・・・

一方で、IR誘致の検討を行っている自治体は少なくありません。北海道、宮城県、千葉県、東京都、横浜市、愛知県、大阪府、和歌山県など、他にも多くの地方自治体が検討を行っています。
中でも動きが活発で有力な候補として見られているのが大阪府です。
大阪府と大阪市は2019年4月に、事業者からコンセプト案の募集を開始。府と市は、2025年に行われる大阪万博に合わせ、開催前年までに人工島・夢洲にIRの開業を目指しています。万博とIRの両輪で関西経済を活性化することが狙いです。現在のところ、前記募集に7事業者が参加登録され、世界のIR事業者売上トップ5の企業が全て入っているとのこと。
他自治体においては、IR誘致を正式に表明していない自治体も多く、また、住民の理解が得られていない自治体も多いです。そのため、この大阪の誘致の動きは、積極的であり、素早く具体的であると言えます。

マリーナベイサンズ

日本が参考にすべき海外成功事例は?

IRは、言わずもがな海外発祥ですが、世界の成功事例としてラスベガス、シンガポール、マカオが挙げられます。
それでは、日本が参考にすべき海外の成功事例はどの事例でしょうか?
この点、日本におけるIR推進の目的は、経済活性化とともに地方創生です。とすれば、経済波及効果が広がりを見せる形の事例を参考にすべきです。この観点から、各事例の売上構成比を見ていきましょう。
まず、ラスベガスの売上構成は、カジノ4割・その他6割となっています。その他とは、ショービジネス、コンテンツの放映権、宿泊施設などの売上です。
次に、シンガポールの売上構成は、カジノ8割・その他2割となっています。シンガポールの場合、その他の売上比率が年によって増減するのが特徴です。
最後にマカオの売上構成は、カジノ9割・その他1割となっています。マカオの場合、この比率は年によってもあまり変動は見られません。

これらの事例からも分かる通り、同じIRと言ってもその収益の上げ方には違いがみられます。そして、特定のカジノ部門でのみ収益を上げるのではなく、様々なコンテンツを通じて収益を上げることにより、周辺地域や様々な業界にお金が循環する仕組みが出来上がるのではないでしょうか。
とすれば、日本が参考にすべき収益の上げ方は、ラスベガスとなります。一方で、ショービジネスはアメリカの文化であり、現在日本に強く根付いているとまでは言い切れません。コンテンツの放映権ビジネスに関しても、面白いテレビ番組が無料で見れる日本においては、やっとネット番組において活性化していきている段階です。この点、カジノなどのギャンブルについては、日本ではパチンコが根付いています。
そのため、IR開業当初は、カジノ部門での集客が大きな比率を占めることが予想されます。そこで、IR開業当初においては、シンガポールの事例を参考にし、徐々にその他部門の売り上げを増やして行く戦略をとるべきではないでしょうか。

日本のIR法制

ここまで見てきたIRですが、どのような経緯・プロセスをたどって開業に達するのでしょうか?
主だった動きとしては、2002年に超党派の議員連盟が発足。2016年12月にIR設立の目的や推進するための前提を定めた「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(IR推進法)」が成立、2018年7月に「IR整備法(特定複合観光施設区域整備法)」が成立、2019年3月にはIR整備法を具体的基準に落とし込んだ「IR整備法施行令」が閣議決定されました。
今後、立地区域を最大3か所に絞り込み、事業者選定を行っていく流れです。

IR開業までのプロセス

(引用:特定複合観光施設区域整備推進本部事務局資料)

長崎IR実現を地方創生に結び付けるには

今回の記事は、ハウステンボスにIRの誘致を行うというものでありましたが、同地域の地方創生に結び付けるために、誘致が実現した際に、具体的にどのように運営していけば良いでしょうか?
まず、地方創生の為には、地域にしっかりと資金が落ちることが必要になってきます。この点、IR施設に対して、いくら多額の消費がなされようと、収益が全て東京や海外に流れてしまう仕組みならば、長崎の地域経済は潤わないことになってしまいます。
そのため、IR運営に携わる企業や関連会社に、長崎・九州の地元企業が出資を行うとか自ら運営に加わることで、資金が域内で循環することに繋がります。
また、地方創生の為には、IR施設という「点」で集客を行うのではなく、長崎・九州地域といった「面」で集客やサービスの提供を進めて行く必要があります。この点、長崎IRは九州全体の観光の活性化を目標としており、九州全体の歴史・文化・自然を体験できる施設・ツアーの開発を行おうと考えています。その目標を実質的に達成するために、九州各地域への交通アクセスの充実も図る必要があります。各地の観光コンテンツへのアクセスが悪ければ、旅行客は足を運ぼうとは考えないでしょう。そして、長崎IRで集客した多くの旅行客を九州各地に送客することができれば、九州地域全体を旅行客が循環していくことになります。さらに、その旅行客が日帰りで帰ってしまわないように、九州各地の宿泊施設の充実を図ることが重要になってきます。長崎IRに訪れると予想される旅行客は、富裕層であることが予想できるため、その客層を満足させられるクオリティの高い施設が求められます。いわば長崎IRを入り口として、九州全体に長期滞在・リピート滞在してもらえる仕組み作りが必要です。
このように、カジノのみが旅行目的になるのではなく、カジノは旅行の1つのスパイスとして機能させ、長崎・九州に滞在することの魅力を高めていくのが必要ではないでしょうか。
海中カジノ施設建設という派手な構想もあるようですが、地道な有機的取り組みが地方創生には欠かせません。