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山形 地方は起業家を求めている 異色の地方創生デベロッパー

2019年07月08日更新

 都会で実績を積んだ人物が地方に移住し起業するー。そんな事例が増えています。今回取り上げるのは、そんな事例の中でも特に異色な取り組みです。東京の大手デベロッパーで経験を積み、山形に移住し、デベロッパーを起業、用地買収から実際の開発までを手掛けています。地方における起業のメリット・デメリットとは?そして、地方起業の成功ポイントとはー。

PickUp記事:「32歳、三井不動産マンが選んだ地方起業の道」(東洋経済ONLINE2018.10.14)

地方は起業家を求めている

 日本で叫ばれるようになって久しい「地方の過疎化」。それは、日本全体の少子高齢化にとどまらず、若者の都市部への流出が原因と考えられます。都市部への集中が過密となり地方の過疎化が進めば、地方においては、税収が減る地方公共団体の存続が危ぶまれ、社会インフラの維持が困難を極め、墓地の管理を行う人手もいなくなる恐れがあります。都市部においては、医療や介護サービスなどの需要が増加することで供給する人手が不足しサービスを受けられなくなる恐れがあります。この人口の偏在は、両者にとって不幸なものです。

 では、なぜ若者は地方に残らないのでしょうか?その答えは、都市部での生活の魅力のみならず、就職先とその選択肢の少なさ、給与の少なさが大きな要因です。

 そこで、若者の流出を食い止め呼び戻すためには、雇用先とその選択肢の増加、給与水準の引き上げを図らなければなりません。

 そのため、地方にこそ事業が必要とされ、起業家・実業家が求められています。

 そんな中、帝国データバンクの調査によれば、多くの企業で「事業承継」に課題を感じている一方、企業の3社に2社が後継者不在の状況が続いています。そして、後継者不足による黒字企業の休廃業・解散が増えていると推測されています。このことは、優良な雇用先が減ることを意味し、非常に勿体ないです。

 そんな社会情勢を反映し、現在、事業承継のマッチングを行う官民のサービスが増えています。

多岐に渡る事業展開を行うヤマガタ デザイン

本文に登場する山中大介氏は、2014年に資本金10万円でヤマガタデザインを創業しているわけですが、ここまでは一般の起業と変わりません。むしろ小資本といえます。

しかし、山中氏はサイエンスパーク内外の交流に課題を見つけ、自分の大手デベロッパーでの経験、情熱を活かし、地域の住民、銀行、企業を巻き込み、228200万円もの資本金を集めることに成功しています。

そして、ヤマガタデザインの事業展開は、農業支援やウェブメディア、求職者と地元企業とのマッチング、土地開発など多岐にわたり、土地開発は、現在、カフェ、ホテル、子供の遊び場に及んでいます。

事業の多様化の理由は、地域に存在する課題に真摯に向き合い、一つ一つ解決策を模索し取り組んでいるからと言えます。

このように東京都出身の山中氏が鶴岡市の課題に真摯に向き合えるのは、地域に移住し、住宅を購入し、自分自身が地域の住民となっているためです。

それは、山中氏が当事者意識を持って事業に取り組むことが重要と考えているためです。そのため、ヤマガタデザインの入社条件は、庄内地方に住民票を移すこととなっています。

山中大介氏                 開発の様子

(引用:NEWS PICKS 2018.6.5記事)

地域の課題をビジネスの手法で解決

社会の問題をビジネスの手法で解決するのが、ソーシャルビジネス(SB)という考え方です。国連は、SDGs(持続可能な開発目標)というものを定め、17の世界的目標を設定しており、これに取り組む社会起業家が増えつつあります。

これに対し、地域の課題をビジネスの手法で解決するのが、コミュニティビジネス(CB)という考え方です。ビジネスの本質は課題解決ですが、地域資源やネットワークを活かし、地域主体のマネジメントを行い、地域内にお金が落ちる仕組みが持続可能な地域社会を形成します。

そして、ヤマガタデザインの取り組みはこのCBと言えます。

地方だからこそのメリット・デメリット

そんな地方での起業ですが、メリットが多く存在します。

第一に、事業所を置く土地・建物の購入費や賃貸料などの固定費が安いことです。事業の大小を問わず都市部で事業を行おうとすれば、この固定費が大きくのしかかることになるため、固定費を安く抑えることができるのは、事業の継続性を高めることに繋がります。

第二に、地方に特化した優遇制度(補助金など)が充実している点が挙げられます。総務省の地域おこし協力隊の制度や自治体によっては移住者起業支援制度を設けているところもあるため、事業が安定しない初期の大きな助けとなります。また、起業者に限らず、移住者に対して一定期間居住することを条件に住宅用の土地・建物をプレゼントする自治体も存在します。近隣住民から農作物の差し入れを頂くこともあります。そのため、生活費を大幅に安く抑えられます。

第三に、自然が多いため、都会の喧騒のようなストレスが少ないため、のびのびした気持ちで事業に取り組むことができます。

しかし一方で、デメリットも存在します。

第一に、東京のように事業所が集中して存在している訳ではないため、打ち合わせを行う際にも移動時間が多くかかります。ですが、地方においても通信インフラは整っているため、テレビ会議などのIT技術を用いれば、ある程度このデメリットは克服できます。

第二に、人口が少ないため、一般消費者を対象にした店舗型小売ビジネスを営業するのは、ハードルが高いです。大規模資本による郊外型ショッピングセンターがそれを更に厳しくします。そのため、実店舗のみに頼るのではなく、インターネットを用いた方法を取り入れる必要も出てきます。

第三に、地方は良くも悪くも人間関係が密であるため、新しいことを始めることに対する批判や、事業の成功に対する妬みなども発生しやすいです。そのため、地方での起業は、地域住民を巻き込んで、一緒に取り組んでいくことが重要です。逆に、人間関係が密であることは、仲間にしてしまえば自分の利益は度外視で協力を惜しまない人が多いです。今回取り上げたヤマガタデザインも、多くの地域住民、地元企業を巻き込んでいるため、彼らの成功を多くの人が望むようになります。

地方に潜むワナ

上記に挙げた優遇制度が存在するメリットですが、意外にも起業家にとって落とし穴になる可能性が存在します。資金が必要で補助金に頼った為に、事業にとって不必要な施策を行うことになり、ビジネスの発展スピードを阻害する要因にもなりやすいです。継続的に補助金を受けていると、企業が補助金依存の体質に変わってしまうことも多いです。起業家はそのことを認識したうえで、依存体質に陥らない為の自律が必要です。

また、多くの住民や企業を巻き込むことが重要と上記しましたが、そのことがワナにもなりえます。多くの協力者を得ることは事業の推進力を上げることに繋がりますが、事業の方針などを合議にて決定してしまうと、角の取れた、特徴のない施策に鈍化してしまう可能性があります。事業の方針は、起業家であるトップが自らの責任と覚悟で決定すべきです。

 地方起業の成功ポイント

地方での起業を成功させるためには、起業の一般的な成功ポイントと地方ならではのポイントが存在します。まず、一般的な成功ポイントとしては、ビジネスモデルを練り、マーケティングを実施し、事業の効率化を図り、事業計画を無理なく立てることが重要です。地方の企業は、この当たり前のプロセスをおろそかにしている例が多くあり、当たり前のことを当たり前に行うだけで、地方においては目立つ存在になりえます。

次に、地方ならではのポイントは、上記したように、地元住民との関わり方です。

地方は地域の課題の解決や事業の発展を諦めている住民・企業も多く存在します。

そういった方に、課題解決・事業展開の方法・取り組みを情熱を持って、分かりやすく、根気強く、説明する必要があります。でなければ、自らの事業に巻き込むことは叶わないでしょう。そのためにも、情熱を持った核となる人物の存在が欠かせません。

ヤマガタデザインの各事業ロゴ

(引用:PRTIMESヤマガタデザイン関連ページ)

最先端技術を取り入れたミガキイチゴ

地方での起業において、他の成功事例としてはGRA社が挙げられます。

同社は、2011311日の東日本大震災の直後から、津波の被災地域である宮城県山元町において活動を開始。「農業を強い産業とすることで世界中の地域社会に持続可能な繁栄をもたらすこと」をミッションとして掲げ、一粒1,000円のイチゴを生み出すことに成功。最先端技術を導入し、経験や勘ではなく、データ管理による栽培方法を確立。イチゴを用いた商品を多数開発し、ブランディングにも力を入れ、付加価値を高めています。

この事例でも、同社の社長である岩佐大輝氏が核となり、周りを巻き込んで事業を推進させたことが大きな成功の要因となっています。

GRA社「ミガキイチゴ」のロゴと商品

(引用:ミガキイチゴFBページ)

YAMAGATA  DESIGNの次なる展開

 ヤマガタデザインの事業展開は、現在進行中のものに止まりません。同社は現在農業ハウスを12棟所有していますが、3年後にその数を100棟に増やすといいます。農業を一から自分達で手掛け、一次産業に存在する課題を洗い出し、解決策を生み、その知見を農家に還元する仕組み作りに取り組む考えです。

 建設した施設の運営も次の課題になってきます。ハード面の整備が終われば、その施設にどのように人を呼び込むか。継続的な努力が必要です。

 事業とは、創業が大変と思われがちですが、その後の継続も更に困難と言われます。

 大切なことは、常に、社内・社外を問わず、ビジネスの本質である「課題解決」の意識を常に持ち続けることでしょう。

地方から世界へ

 これまで見てきたように、地方において起業家が求められ、地方におけるメリットやデメリット、成功のポイントなども、多数の事例研究を行う中で、ある程度明確になりつつあります。ですが、日本全国における起業率がなかなか高まらないのが現状です。その原因は何でしょうか?

 端的に言って、日本は他人の「失敗」に対して不寛容な社会であり、一度レールから外れた者はなかなかリスタートを切るのが厳しいです。そのため、本来であればリスクの取りやすい若者がなかなかリスクが取れず、起業への一歩を踏み出すことができません。

 それでも、昨今の働き方改革の流れの中で、副業を始める人が増え始めています。副業を行うことで、個人のビジネス感覚が磨かれ、小さいながらも自らの「事業」を営むことの喜びを知ることができれば、おのずと起業率は上がっていくものではないでしょうか。

 「失敗」に対して寛容な世の中になり、多くの起業家が生まれ、社会を大きく変えるようなイノベーションが、まさに地方から生まれることを願わずにはいられません。