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佐賀 地方の雇用を守れ!個人M&Aが一般的な時代に。

2019年07月29日更新

 「この店を続けるのも私の代で最後」。近所のお店屋さんからこういった声を耳にする機会も増えているのではないでしょうか?現在、この後継者不足が大きな社会問題になっています。というのも、技術の消滅、雇用先の減少、町の賑わいの減少に繋がるためです。ですが、この問題に取り組む企業や事例も増えています。それでは、後継者不足に対する取り組みのその内容とは?そして、その取り組みが上手くいくための方法とはー。

PickUp記事:「企業の事業継承相談会 個別に具体策を助言」(佐賀新聞LiVE2019.02.27)

団塊の世代の引退で迎える大廃業時代

  今日本の中小企業は、大廃業時代を迎えています。というのも、中小企業経営者の年齢が高齢化しているためです。

 本来であれば、経営者が高齢化すれば、後継者が事業を引き継ぐのが望ましいです。ですが、現在の日本は、その後継者が不足しています。その原因は様々あります。

 まず第一に、そもそも若者の数が少ないです。出生率の低下に伴い、少子高齢化が進んだためです。第二に、若者の都会志向のため、地方に若者が残っていません。第三に、若者の安定志向や職業選択の趣向変化が挙げられます。実家の中小企業を引き継ぐよりも、都会の大企業に勤めたいという訳です。

 ですが、中小企業は、企業数の99.7%を占め、給与所得者の65%以上の雇用を守っています。仮に、従業員数10人の黒字企業が後継者不足を理由に廃業することとなれば、その会社の技術や取引関係、10人の雇用先が失われてしまうことになります。これは、日本にとっては深刻な損害となります。

中小企業経営者年齢分布 

(出典:中小企業庁「事業承継を中心とする事業活性化に関する検討会(第1回)」)

黒字でも後継ぎが見つからず・・・ 

これは大げさな事例を例示した訳ではありません。実際に倒産件数は減っているものの、休廃業・解散件数が増えているのです。ちなみに休廃業とは、特段の手続きを取らず、資産が負債を上回る資産超過状態で事業を停止することをいい、解散とは、事業を停止し、企業の法人格を消滅させるために必要な清算手続きに入った状態になることで、基本的には資産超過状態です。どちらも、資産状況としては事業継続が可能であるにもかかわらず、他の要因で事業継続ができなくなっているものです。そして、アンケートによれば、廃業理由の約3割は後継者不足だと言われています。

休廃業・解散件数、倒産件数の推移

(データ出典:東京商工リサーチ「2016 『休廃業・解散企業』動向調査」)

(グラフ引用:中小企業庁 HP

 個人M&A・第三者事業承継が増えている

そんな課題がある中、事業承継の形も変化してきています。以前は親族内承継が主な事業の引継ぎ方法でしたが、最近では、従業員や社外の第三者といった親族外承継が6割を超えています。

これは、事業を黒字のまま廃業させるよりも、第三者事業承継として引き継いだ方が、引退する経営者にとっても資金的にメリットがあるからです。それは、事業を廃業するにしても、廃業のための費用がかかるのに対して、第三者承継という形であれば、事業を売却することで売却資金を得ることができるためです。

そういった流れを受けて、官民による支援も増えてきています。各都道府県には公益財団法人による事業引継ぎ支援センターが置かれ、民間では、事業を売却したい人と購入したい人をマッチングするサービス(TRANBI、スピードM&Aなど)が増えてきています。

一方で、事業承継主体の購入者として、株式会社日本創生投資が目立ってきています。このグループは、事業承継を行うだけでなく、中小企業のコンサルティングなどを行い、企業価値を高める支援も行っています。

事業承継からの経過年数別の承継方法の推移

(データ出典:経済産業省「事業承継に関する現状と課題(平成28年4月)」 )

(グラフ引用:事業承継総合センター )

佐賀県が抱える悩みとは

そんな中、今回取り上げた取り組みは、佐賀新聞社と日本M&Aセンターが共催の、事業承継に関する無料相談会です。

佐賀県は、人口約82万人で、九州地方の中で最も人口、面積、経済規模が小さいです。他の都道府県よりも第一次産業の割合が高いことから、農業県と呼ばれることもあります。20歳前後での進学や就職による転出が多く、生産年齢人口割合が低いのが特徴です。このことからも推察される通り、後継者不足に悩んでいます。

今回取り上げた取り組みは、そんな佐賀県の課題を解決すべく行われたものです。 

 こんな事業承継の事例も・・・

後継者不足を理由とする事業承継にも何パターンか種類が存在します。経営者の年齢、経営者の健康問題、第二の人生の為のハッピーリタイアなど様々です。また、事業業種に関しても様々です。

反対に、買収を行う側の理由は、起業の代替手段、商品・サービスの拡充、規模のメリットの追求、周辺分野への進出、ライバル企業の買収、垂直統合などです。

大手企業に勤めていた若者が金属部品製造メーカーを買収した事例においては、買収資金を金融機関からの融資により調達し、大手企業で行われているノウハウを活かして業務改善を行い、売上・利益の拡大に成功した会社があります。また、高齢経営者の会社ではありがちですが、経営者の体力を理由に仕事の受注量を敢えて減らしていた事情も存在し、若い経営者に事業承継したことで受注量を増やせた事情もあったようです。

このような個人による事業承継の場合には、事業承継のガイドラインでは、金融機関が融資する際に後継者の個人保証が必要ないようになってきています。また、事業承継による経営の革新性を上手く事業計画書で主張できれば、事業承継費用の3分の2の補助金が出る制度も存在します。

事業承継のエッセンス

事業承継のエッセンスは、事業承継マッチングのエッセンスと、事業承継後の経営成功のエッセンスの2つに大別されます。

事業承継マッチングのエッセンスとしては、まずもっては事業承継の早期計画を行うことです。第三者承継を決める前に、親族内承継や従業員承継を行えるように早めはやめに経営者引退後の計画を行うことが重要です。早めに計画を行うことで、経営者教育のための時間を長くとることができ、切れ目のない事業承継が可能となります。経営者は気力・体力が旺盛なことが多く自分がいつまでも若いと思いがちな方が多いため、早期の対策を怠りがちです。ですが、経営者が高齢になってからでは、後継者教育のための時間が長く取れず、健康に対する不安も顕在化してきてしまいます。経営者が高齢になって第三者承継として会社を売り急ぐことになれば、買収する側に足元を見られ安く買い叩かれてしまうことにもなりかねません。余裕を持った準備が必要です。

次に、事業承継を行う際に、後継者選定においては、経営能力の見極めも勿論大切ですが、人物の経営への意欲や人間性による見極めも重要になってきます。というのも、事業性や社風との調和性が無ければ、いくら経営能力のある若い人物を後継者に据え置いても、事業の継続的な成功は見込めないからです。

また、後継者が事業承継しやすい環境を整えることも重要です。結局は、事業承継とは言っても、会社売買の「市場」であるので、会社を引き継ぐ魅力が無ければ選ばれません。そのためにも、貸借対照表の資産状況の改善や、利益状況の改善、会社の資産や許認可に対する権利などの整理、株式などの会社所有権の整理などを行う必要があります。これは、事業承継に限らず健全経営を行うことに他なりませんが、中小企業においてはなおざりにされがちです。

事業承継後の経営成功のエッセンスとしては、まず、新鮮な目で会社の事業を観察し、課題を発見し、改善に取り組むことです。事業承継により新しく経営を行うということは、ある意味でコンサルティングに近いです。これまでの経営者が行っていた経営にはその人の個性が反映されるものであるため、新鮮な目で事業・業務を評価し直し、改善を行う必要があります。それにより、コストの削減や新たな可能性の発見が可能となることでしょう。そこに自らが培った知見を活かすのも会社の発展性に寄与するでしょう。

引退した経営者は、相談役やアドバイザーとして、会社に残ることも多いでしょう。ですが、後継者が始めた新しい取り組みに対して、あまり口を挟まない方が良いです。それは、2つ理由があります。まず、前経営者が口を挟みすぎると、後継者が新経営者として育たないからです。失敗と反省を繰り返して人は成長するものですが、その機会を奪ってしまいます。社内における権威性が後継者に移行しないことにもなります。2つ目の理由として、前述の新鮮な目による事業・業務の改善の芽を摘むことになってしまうためです。若い人ならではの視点や知見の方が、現代の市場に合ったものになっていることが多いため、前経営者のアドバイスが場合によっては会社の害にもなります。

移住者雇用先の確保の為に

現在、日本全国で地方創生の為の取り組みが多く行われています。そして、地方移住のための取り組みも盛んです。

ですが、地方移住するための一番大きなネックは、「仕事」です。移住したい地域はあるものの、働き先が無いために地方移住を躊躇っている人が多くいます。現在は、地方に移住する人は、起業や就農することで、自ら仕事を「作っている」人が多いです。ですが、自ら仕事を「作れる」人は、ある意味で強者と言っていいです。恐らく、移住したい人の大部分は、自ら仕事を作る度胸は無く、「雇用先があれば移住したい」と考えていることでしょう。

とすれば、地方に雇用先を確保することは、非常に重要なことです。黒字企業の廃業などは絶対に避けなければなりません。

この事業承継がこれからどれほど促進され活発になっていくかが、地方創生の行方にも大きく影響するのではないでしょうか。