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広島 イノベーションを起こせ!革新を生み出す「共創」の仕組み

2019年08月12日更新

 多く求められている一方なかなか生み出せないイノベーション。各業界が躍起になって取り組みを行っています。今回取り上げるのは、カープで盛り上がりを見せる広島。知事は、スタンフォード大MBAを取得し起業経験もある湯崎英彦氏。積極的にイノベーションを起こそうと、これまでの行政になかったような取り組みを行っています。そもそも、なぜ今イノベーションが求められているのでしょうか?広島が真剣に取り組む行う狙いとはー。

PickUp記事:「キーワードは「県外」「失敗」「マッチング」」(Forbes2019.05.15)

ひろしまSANDBOXのロゴ

(引用:広島県)

なぜイノベーションが求められているのか?

 現在日本においては、イノベーションを起こさなければならないと各業界で耳にすることが多いです。ですが、そもそもなぜイノベーションを起こす必要があるのでしょうか?
 それは、市場が成熟化し商品がコモディティ化し差別化が難しい中で、商品に付加価値を付けることが難しくなっているため、イノベーションを起こすことで新たな付加価値の創出につなげる必要があります。少子高齢化の影響も相まって閉塞感が国内に漂いましたが、国内産業において大きなイノベーションが起こらなかったこともその一つの要因ではないでしょうか。
 このように、産業の活性化においても、国内の雰囲気の醸成にとっても、イノベーションが求められているものと考えられます。

オープンイノベーションとは?

これまでの産業においては、イノベーションを起こす際には、社内のリソースのみを用いることが多いものでした。上手く商品化に漕ぎつけば、その利益を独占できたためです。このような方法をクローズドイノベーション(自前主義)といいます。
しかし、この方法では上手くいかなくなっています。顧客ニーズの多様化や製品ライフサイクルの短期化、グローバルな競争の激化がその原因です。自社リソースのみを用いて商品開発を行っていたのでは、多様化する価値観に対応できず、また、時間をかけて開発を行っていたのでは、投資費用の回収の前に他社が似た商品を開発し競争が激化してしまう事態にもなりかねません。
そこで昨今注目されているのがオープンイノベーションという方法です。オープンイノベーションとは、外部に存在するアイデアの内部での活用と、内部で活用されていないアイデアの外部での活用によって価値を創造するイノベーションのことをいいます。すなわち、組織群が連携することによって、組織の内外のリソースを活用し、自らのみではなし得ない新しい価値の創造を行うことをいいます。
そして、オープンイノベーションには、インバウンド型とアウトバウンド型の2種類が存在します。インバウンド型は、自社に足りないリソースを外部から補完することによって開発を加速させるもの、アウトバウンド型は、社内の技術や知識、アイデアを外部に開放することによってアイデアを募集し開発を加速させるものです。
オープンイノベーションの長所は、自前のみでは調達しえないリソースを活用することができ多様な開発が行えること、異分野の連携が行われることで全く新しい商品が開発される可能性があること、多くの組織・人員を巻き込むことになるため多くの応援者を集めることができ、一般的には成功の確率が高まること、などがあげられます。
これまでのクローズドイノベーションは社内リソース活用の最適化であるといえますが、オープンイノベーションは社会リソース活用の最適化であるといえるのではないでしょうか。

ひろしまSANDBOXの取り組み

ひろしまSANDBOXのコンセプト

(引用:広島県)

 オープンイノベーションの仕組みを積極的に活用としているのが、今回取り上げた広島県の「ひろしまSANDBOX」の取り組みです。ひろしまSANDBOXのコンセプトは、作ってはならし、みんなが集まって、創作を繰り返す、「砂場(サンドボックス)」のように何度も試行錯誤できる場です。 AI/IoT、ビッグデータ等の最新のテクノロジーを活用することにより、広島県内の企業が新たな付加価値の創出や生産効率化に取り組めるよう、技術やノウハウを保有する県内外の企業や人材を呼び込み、様々な産業・地域課題の解決をテーマとして共創で試行錯誤できるオープンな実証実験を行うものです。
この事業は委託事業となっており、採択された事業者が広島県の代わりに実証実験を行うという立て付けになっています。そして、実証実験にかかった費用は広島県が支払うこととなっています。そのため、課題解決に向けたアイデアはあるものの、費用対効果やリスクの面から一歩を踏み出すのを躊躇っている事業者にとって背中を強く押す制度となっています。また、その事業予算も、3年で10億円という大規模なものになっており、広島県の本気度が窺えます。
行政の委託事業においては、課題の解決や目的の達成といった、結果や成果物が求められるのが通常です。しかし、今回の取り組みは、「実証実験を行うこと」が事業の目的となっており、課題の解決などの成功・結果が求められていない所に特徴があります。そのため、この事業は、投資的意味合いが強いです。では、なぜ、一地方自治体がこのように多くの公費を投入し投資的な事業を行うのでしょうか?
この事業を行うにあたって広島県の狙いは、モノづくりの発展にあります。参照記事中にもある通り、広島県は豊かなモノづくり県であるものの、現状に満足し世界の変化に十分に対応できていないという課題を抱えています。この課題に対し、県内外から多くの企業の参加を募ることで、データや知見の蓄積、コミュニティの形成、技術やビジネスモデルの蓄積が進むことになり、引いては地域の発展に結びつけようと試みているのです。

ひろしまSANDBOXの体勢図

(引用:広島県)

広島県によるITを活用した新規事業創出に向けた施策

(引用:事業構想HP)

まずは手を動かせ

今日の世界は、技術革新が目まぐるしく、人々を取り巻く環境も複雑化しています。隆盛を極めたサービスであっても、1年もせずに廃れてしまうケースが多くなっています。そんな予測不可能な状態を指して、「VUCA」の時代と呼ばれています。
VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取り作られた言葉で、現代のカオスな環境を指しています。
これまでの経済環境においては、戦略思考が重要とされ、データに基づき戦略計画を立て、それを実行することが良しとされてきました。しかし、VUCAの時代においては、課題を特定後、頭で考えるよりも、まずは手を動かすことが求められています。いわば、理論より実践を先んじろという訳です。
VUCAの時代においては、データを取得してから戦略立案・実行までの間に既に環境が変化してしまっている可能性が高く、戦略が役に立たない可能性があります。そのため、戦略を立てるよりもまずは手を動かし、課題解決に有効そうな施策を実行し、トライ&エラーで改善していくことが求められています。実行スピードが重要な鍵となっています。考え方としては、戦略思考よりもデザイン思考やビジョン思考と呼ばれる思考法が重要となってきます(※参考図書:「直感と論理をつなぐ思考法」(佐宗 邦威))。
特に、行政においては単年度会計が原則とされ、事業は1年間を標準の区切りとされていますが、VUCAの時代においては、当初の計画と実施の段階で環境が変わっている可能性があります。実効性のある事業を行うためにも、行政の事業においても柔軟性のある運用ができる環境にする必要があるように思えます。

イノベーションを起こすためには・・・

イノベーションを起こすためには、いくつかのポイントがあります。
まず、失敗を許容するということです。失敗を許容しない環境では、思い切った大胆な発想の実行は行われず、新しいものは生まれません。また、「理論より実践」の話にも繋がりますが、失敗も1つの知見・データであるため、その中に新しい価値の種が眠っている可能性があります。
次に、これまでにない異分野の組み合わせを行うことです。新しいものとは、0から1を生み出すことではなく、モノとモノとの新しい組み合わせを見つけることに他なりません。この点、オープンイノベーションの方法は、異分野の新しい組み合わせを見つける良い契機となるでしょう。
第三に、何か新しいものを生み出すためには、「余裕」が必要です。イノベーションに向けた取り組みに時間や思考を避ける余裕が無ければ、新しいことに挑戦は出来ません。当たり前のことではありますが、見落としがちなポイントです。イノベーションを次々に起こすグーグルでは、業務時間の20%を普段の業務とは異なる業務(例えば興味のある分野の調査)などに充てなければならない20%ルールというものが存在します。これは、イノベーションに必要な時間的余裕を意図的に作り出している事例と言えます。
何はともあれ、ひろしまSANDBOXのようなオープンイノベーションの取り組みが日本各地に広がることが楽しみですね。