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京都 酒造メーカーの海外販路開拓に向けたインフルエンサーの活用例

2019年05月14日更新

「YouTuber」や「インスタ映え」という言葉をあなたもご存じではないでしょうか?小中学生のなりたい職業ランキングにYouTuberが上位に入り込むなど、話題を集めています。今回の取り組みは、伝統的な日本酒のプロモーションにYouTuberを起用するというものです。日本酒離れが進む中、日本酒を取り巻く環境の変化も著しいものがあります。そこで日本酒メーカーが目を向けたのが海外でした。ですが、YouTuberをただ起用するだけでは効果は上がりません。それでは、効果的なYouTuberを始めとしたインフルエンサー起用のポイントとはー。

PickUp記事:「伏見の酒を海外へ 外国人ユーチューバー起用で新しいプロモーションを模索」(伏見経済新聞2019.01.30)

伏見区の概要

 伏見区は京都市に所在し、市内11区の中でも最大の約28万人の住民が生活をしています。

 城下町の伝統を受け継ぐ商業拠点である一方、京都都心部や大阪方面へのベッドタウンとしての性格を有します。

 伝統的な日本酒の名産地として知られ、全国的に有名な月桂冠、宝酒造、黄桜の蔵元も区内に所在します。

 その他にも、先端技術分野の世界企業である京セラや村田機械の本社も所在しています。

 現在外国人観光客で大いに賑わう伏見稲荷大社等の歴史的な名所も数多く残るが、全国の地方自治体のご多分に漏れず、人口減少が始まっています。 

伏見稲荷大社の千本鳥居

(引用:Wikipedia

日本酒と酒蔵の現状 

伏見名産の日本酒ですが、嗜好の変化、人口の減少、少子高齢化、健康志向などの社会変化により、国内出荷量は年々減少しています。

そして、昭和30年代には全国で4,000件以上あった酒蔵も、平成28年時点で約1,400件まで減少しています。

その裏には、杜氏が高齢となり現役を引退することで、作り手不足を原因とする廃業も増えてきています。

一方で、201921日から日欧のEPA(経済連携協定)が発効し、EUから輸入されるワインへの関税が撤廃され、750mlのもので最大94円安く購入できるようになります。このことで更に日本酒の市場が縮小すると懸念されています。

日本酒の国内出荷量推移(千kl)

(データ出典:農林水産省)

海外を目指す日本酒

一方で、日欧EPAが発効することで、国内で製造された日本酒をEUに輸出する際にかかっていた関税も撤廃になります。ワインの輸入が進む一方で、日本酒の輸出にとってチャンスでもあります。

また、2020年に東京オリンピックが開催されることを背景に、世界的な日本ブームが巻き起こっています。日本を訪れる外国人観光客も、2018年に年間3,000万人を突破しました。

そこで、積極的な清酒製造メーカーは、縮小する国内市場から海外の市場に目を移し、輸出に力を入れ始めています。

今回取り上げた事例は、海外の販路開拓のための取り組みの1つと言えます。YouTuberやインスタグラマーといった、一部のコミュニティの人たちに対し強い影響力を有する人をインフルエンサーと言い、その人たちを活用したプロモーションのことをインフルエンサーマーケティングと言います。国民の価値観が多様化したことで、趣味趣向が画一的になりやすいテレビ番組に対する視聴率が低下し、代わって、価値観の多様化に対応するYouTubeやインスタグラムといったSNSに割く時間が増えたことで、そこで有名となった人物の社会に対する影響力が増したことが、この手法を用いる事例が増えている背景となっています。メディアとしては、YouTube、ブログ、instagramなどが一般的です。

具体的には、インフルエンサーが商品を実際に体験し、その体験した流れや感想を各自のメディアを通じて発信することで、視聴者や読者にその情報が届くことになります。そして、マスメディアと比べ、視聴者や読者はインフルエンサーに対し興味・関心を元々抱いているため、反応が良いことが特徴です。

増えつつある海外のSakeメーカー

国内の酒造メーカーが輸出を増やそうと頑張っている一方で、世界各地の現地生産「日本酒」が増えています(なお、地理的表示の制度により、国産米を使って日本国内で製造されたものだけが「日本酒」「Sake」という呼称を使用することができ、それ以外のものは「日本酒」「Sake」という呼称を使用することを禁止されているため、これら外国産のものは厳密には「日本酒」とは呼びません。)。

国としては、アメリカ、フランス、ブラジル、台湾、韓国などが挙げられます。その生産母体は、日本の酒造メーカーが関与しているもの、日系移民の子孫などによるもの、純粋な現地住民によるものに分けることが出来ます。ブラジルにおいては日系移民の子孫などによるものが存在しますが、日本の酒造メーカーが関与するものは各国において増えています。中でも注目するべき動きは、純粋な現地住民によるものです。こちらは、アメリカやフランスにおいて動きが活発です。この動きは、「日本酒」という単なるモノの輸出にとどまらず、「日本文化」の輸出・定着の動きとみることができます。

短期的視点で見れば、日本酒輸出のライバルということになりますが、そのような狭い視野で物事を捉えてはいけません。ライバルがいるということは、互いに競争をすることで相乗効果(シナジー)を生み出すことになり、市場全体を盛り上げることになるため、むしろ歓迎すべきことです。また、日本文化が他国に輸出されることで、新たな文化が芽吹くことになります。その新たな文化を日本国内に逆輸入することで、再び国内の日本酒文化が盛り上がることになります。日本国民は「海外で人気のもの」には弱いため、そのような様子を想像することは難しくありません。

国内の人口減少が進んでいく中で、他国の成長を自らに取り込む工夫をすべきです。 

 YouTuber」の検索トレンド推移(独自調査)

(参照:Googleトレンド)

外国人インフルエンサーを活用した他事例

外国人のインフルエンサーを用いたマーケティング事例は、前述の通り増えています。その事例として、地方公共団体が主催する観光モニターツアーに海外インフルエンサーに参加してもらう事例が最近よく見られます。

その中のコーディネーターとして面白い動きをしているのが、「ABC Cooking Studio」です。同社は、アジアを中心に広く料理教室を展開しており、そこには流行に敏感な現地の親日家の女性が多く集まっています。料理教室に通う人の中には、SNSを活用し情報発信を行っているインフルエンサーの方も多いです。そういった「生徒さん」に同社がお声がけをし、モニターツアーに参加してもらう取り組みが増えています。

YouTubeにて地方を紹介する動画が上手く拡散した事例としては、「Abroad in Japan」というチャンネルのものが挙げられます。イギリス出身のYouTuberが日本の地方の魅力を発信することで、主な視聴者である欧米人の興味を上手く掻き立てています。具体的に、福島のスキー場を紹介した動画では、紹介されたホテルに欧米人からの予約が殺到し、大手ホテル予約サイトにて一時的にランキング1位を記録したほどです。YouTubeの良い点は、過去の動画であっても、何度も視聴される点にあります。そのため、視聴者の興味関心を引き、動画が視聴され続ける限り、そのプロモーションの効果はずっと続くことになります。

 インフルエンサー活用のポイント

インフルエンサーを活用するためには、まず、きちんと自らの取り組みのターゲットを定めることが重要です。ターゲットが定まった段階で、次に、そこに影響力のあるインフルエンサーを見つける必要があります。その際に重要になってくるのが、コーディネーターです。簡単に言えば、インフルエンサーを知っている人と組むことがポイントとなってきます。そうすることで影響力の無い人物や自らのターゲットには響かないインフルエンサーを選ぶリスクを軽減することができます。そして、自らが発信したい情報のみにとらわれることなく、インフルエンサーに実際に商品・サービスなどを体験してもらった上で彼らのフォロワーに響く内容・情報を聞き出し、上手く情報発信に盛り込むことが成功のポイントです。そうして得られた知見は、その後、商品・サービス等の開発に還元する姿勢も大切になってきます。

今後もSNSの力は拡大すると思われるため、インフルエンサーの重要度は増していくことでしょう。