アイデアスプーン 販路開拓・地域発信サポーター向けポータル

  1. アイデアスプーン
  2. 記事種別
  3. 神奈川 耕作放棄地の再生 みかん畑がレモン畑に

神奈川 耕作放棄地の再生 みかん畑がレモン畑に

2019年05月14日更新

 日本人の生活に溶け込んでいる「みかん」。その生産も現在、転機を迎えています。今回の取り組みは、みかんの耕作放棄地をレモン畑に再生させるというもの。その背景には、みかんの価格の下落・労働作業の厳しさを背景とした後継者不足という課題がありました。耕作放棄地を減らすために必要とされるものとは。そして、これからの農業に必要とされる姿勢とはー。

PickUp記事:「耕作放棄されたミカン畑をレモンが救う 「小田原みかんプロジェクト」が呼び掛け」(小田原箱根経済新聞2018.11.08)

廃れたみかん畑

 今回の舞台は、神奈川県小田原市片浦地区。かつてはみかんの生産が盛んでしたが、生産者の高齢化、後継者不足により、生産者は3分の2になりみかん畑の耕作放棄地が増えています。

 ちなみに、耕作放棄地とは、高齢化や過疎化による人手不足などで、過去1年間耕作されたことがなく、今後数年の間に再び耕作する意思のない農地のことをいいます。そして、後継者不足により生産者の高齢化が引き起こされるわけですが、その根本原因には、農業生産物の価格の下落、労働作業の厳しさがあります。

 特に、みかんは、過去に価格が大幅に下落、畑は急峻な山間部に存在し、果実に日光を当てるための剪定に手間がかかり、収穫時期も冬の3か月に集中するなど、負担が大きいです。

 日本全国においても、耕作放棄地は増えており、2015年には42.3haにのぼり、全国の農地全体の10%以上となっています。

耕作放棄地の統計(万ha)

(出典:2015農林業センサス報告書)

耕作放棄地増加による弊害

耕作放棄地が増えることで様々な弊害が引き起こされています。

まず、人間と動物との緩衝地帯となっていた農地が減ることで、放棄地や農地に侵入しやすくなり、農作物に対する鳥獣被害が増加します。また、人間と動物の生活領域が狭まり、人間に対する直接的な被害も増加します。

次に、放棄地になることで雑草や害虫が増え、周辺農家の生産物に悪影響を及ぼします。この点、個人の所有物とはいえ、放置されると他者の迷惑となります。

第三に、放棄地には不法投棄する者が現れ、周辺環境を悪化させる可能性があります。

さらに、農地は保水機能を有しますが、放棄地となることでその機能が失われ、大雨の際に河川の洪水を引き起こしやすくなります。

イノシシなどによって食い荒らされたみかん

(引用:小田原箱根経済新聞2017.02.26

「みかんからレモン」で収益性が3.7倍!

今回の取り組みは、価格が大幅に下落し鳥獣が好むみかんの転換果実として、レモンを栽培するというものです。なんと、単位面積当たりのレモンの収益性はみかんに比べ約3.7倍だといいます。

すなわち、レモンは、枝の剪定作業がみかんの約6割程度と負担が軽く、1キロ当たりの販売価格はみかんの2~3倍と高いです。また、果実を鳥獣に食べられる被害も少ないそうです。

この他に小田原市では、みかんの転換果実としてキウイの栽培を昭和60年代から行っています。キウイも鳥獣被害の少ない果実であり、海外産のものとの出荷時期の調整、品質改善などにより、価格が安定化してきているといいます。

今回の取り組みが行っていることは、まさにマーケティングであり、デザインです。

すなわち、みかんの低価格という課題を、マーケットでより高く販売できるレモンに変えることはマーケティングと言え、みかんの鳥獣被害・重労働という課題を、レモンに変えることで課題を低減化していることはデザインと言えます。

今回の取り組みはまだ始まったばかりです。今後、本格的な栽培への取り組みや、海外産のレモンや国産レモンとの競争が必要になってくることでしょう。

その中でも生き残れる価値を生み出すために、継続的な取り組みが必要です。

「守る農業」から「攻める農業」へ

これまでの農業は、品質の良い農産物を生産していれば、JAが買い取ってくれ、販売を行ってくれる仕組みになっていました。ですが、その仕組みはもう終わりに近づいています。

今回の事例でも見たように、「普通の野菜」や「普通の果物」では、一般商品と同じようにコモディティ化に陥り、低価格に陥ってしまいます。また、TPPの締結などにより、外国産の農産物が安く国内に入ってくることもありえます。

そこで、農業を営むにも経営者的視点が重要になってきます。具体的にまず重要なのは、マーケティング思考です。生産した農産物を高価格で売るために、比較優位性のある作物を選択し、生産しなければなりません。また、マーケットがどのような農産物を求めているかをリサーチし、顧客の嗜好に合わせて品質改良を行っていくべきです。

単位面積当たりの年間生産額を最大化するために、農地の年間活用スケジュールも管理しなければなりません。

また、農産物を高価格で販売するためには、ブランディングも行い、信頼度を高めていかなければなりません。

利益を大きくとるためには、自ら生産した農産物を加工・販売することも必要になるかもしれません。いわゆる六次産業化です。ぶどうを育てワインを生産するワイナリーが典型です。

その他に、農作業や収穫などの「農業体験」を販売することも考えられます。最近増えつつあるファームツーリズムの取り組みです。

全てを自ら行わないまでも、戦略を持って農業を運営していかなければ生き残りは厳しいです。

高い質の農産物を生産していればいい「守りの農業」ではなく、自ら消費者の中に切り込んでいく「攻める農業」を時代は求めています。

耕作放棄地解消を阻む大きな壁

前述の通り、耕作放棄地は日本全国で増えています。問題意識は共有されつつあるものの、その解消がなかなか進まないのは、なぜでしょうか?

その一つの答えは、法律です。農地に関する規制を行っているのが農地法ですが、原則として農地を取得できるのは農業生産者だけという定めになっています。

ですが、農業生産者が高齢化し減少し続けている現状の中で、既存の農業生産者の中に規模の拡大を図ろうとする者は極めて少ないです。そのため、農地の譲渡が進まず耕作放棄地となります。

また、新規に就農しようとする者は、その時点では農業生産者ではないため、農地法の制限の下、農地を取得することが出来ず、参入を阻まれています。新規就農者が農業を営むためには、他人の農地を借り、腕を磨いてからでないと農地を取得できない定めになっています。

農地を他の目的で利用する転用も法律により制限されています。例えば、相続により農地を取得した非農業生産者は、譲渡も難しく、転用もできず、耕作放棄地としてしまいます。

逆に、市街地に近い農地は、宅地として転用が認められる場合もあるため、宅地として高く販売することを狙っている者も存在し、耕作放棄地となっているケースもあります。

そこで国は、農地中間管理機構(いわゆる農地バンク)を各都道府県に設置し、農地バンクが農地所有者と農地を利用したい者の間に立ち、双方にメリットがある形で農地の活用を促進しようとしていますが、成果は芳しくありません。耕作放棄地であれば全てその対象となる訳ではないためです。また、農地バンクに土地を貸す期間も10年以上となっているため、所有者が敬遠します。

この他にも耕作放棄地に対する固定資産税の増加や耕作放棄地利用の際に助成金等を交付する制度を設けていますが、根本解決とはなりえません。

 農業を魅力的にし耕作放棄地を減らす

耕作放棄地を減らすためには、根本的には、農業を魅力ある産業にすることです。具体的には所得向上と負担の軽減を図っていく必要があります。そのためにも、「攻める農業」の徹底が必要です。「稼げる農業」が実現できれば、耕作放棄地を誰もが欲しがるようになります。

次に、農地法を改正し、まずは新規就農者が土地を取得しやすい制度にする必要があります。一方で、転用制限は、現状維持かより厳格にする必要があるでしょう。

また、参入障壁を低くするため、初期投資や運営資材などのコストを下げる必要があります。この点、国は、農業競争力強化支援法により、コストの低廉化を促進しようとしています。

そして、これからの農業は、コストの削減、事業の安定化、負担の軽減、利益の拡大のために、大規模集約化、農業法人化、最新技術の導入が必要になるでしょう。

伝統的価値観のみにとらわれることなく、時代に合った在り方を模索しなければなりません。