2022年05月16日更新
PickUp記事:惣菜盛付ロボを実用化 作業者シフト、量子コンピューターで計算(食品新聞2022.04.06)
日本の惣菜製造業界は、深刻な人手不足に悩まされています。
そこで、工場にロボットを導入して人手不足を解消、生産性を向上するとともに、近年注目されるSDGs目標のひとつである、働きがいや職場環境の改善に役立てようと、「令和3年度革新的ロボット研究開発基盤構築事業」の事業代表である一般社団法人日本惣菜協会は、食品製造事業者7社とロボット等の開発事業者8社と協働し、人に替わって惣菜を盛り付けるロボットや、作業者のシフト組みを計算する量子コンピューター等の実用化に成功しました。(詳細については、
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220329006/20220329006.html
https://www.nsouzai-kyoukai.or.jp/news/20220329/
)
今回の試みは、経済産業省が進める事業のひとつで、ロボットフレンドリーな環境の構築や、業界初となるロボット、量子コンピューター等の実用化に向けた取り組みで、「ロボットによる惣菜の盛り付け作業」、「量子コンピューターによる作業者のシフト計算」の実用化は、ともに業界初だそうです。
食品製造の分野では、惣菜製造における「盛り付け」工程に最も多くの人手がかかっていますが、ポテトサラダのような、柔軟かつ不定形な食品を素早く見栄え良く盛り付けられるロボットの開発には、高度な技術が必要であるほか、各工場の規模や製造品目に合わせた小型化やカスタマイズが求められるため、現場に導入するにはロボットの価格が高すぎるなどの問題点が指摘されていました。
これらの事由から、同協会は、一企業ではなく業界全体で取り組むとともに、以下のようなさまざまなロボット活用スキームを検討しており、将来的により多くの企業がロボットを導入できる道を探ろうとしています。
・導入および保守スキーム
・リースやレンタルスキーム
・ロボット派遣スキーム
また、人手不足だけでなく、コロナ禍等の影響から、惣菜製造現場では、作業の自動化や無人化、非接触化のニーズが高まっており、工場作業者のソーシャルディスタンスの確保や、COVID-19の感染拡大防止の観点からも、ロボットの導入は、時代の流れに合った解決方法と言えそうです。
上でも触れましたが、感染症対策の一環でロボットを活用することは、作業者にとって安全な職場環境の構築・改善策でもあり、SDGsの面でもメリットがあると考えられます。
今回、ロボットの現場導入に協力したマックスバリュ東海株式会社執行役員の遠藤真由美氏もまた、「単純作業をロボット化することにより、女性を中心とした従業員にも判断業務や価値のある仕事をしてもらいたい」と、従業員の働きがいや、職場環境、女性活躍等に言及しています。
ロボットの導入が進むことで、職場環境の改善や働きがいのある仕事への従事等、企業におけるSDGs達成が推進されていくように思われます。
(引用:コネクテッドロボティクス株式会社公式HP)
少子高齢化により人手不足が日本で深刻化する中、経済産業省は、ものづくり現場での人手不足対応等を喫緊の課題にあげており、この課題を解決するのに、ロボットの導入を推進しています。
ロボット導入で人手不足を解消、生産性の向上を図るとともに、行政が積極的に取り組んでいるSDGsの17ゴールのうちの、
「8.働きがいも経済成長も」
「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」
にもつながり、SDGsへの貢献が期待できます。
なお、今回行われた事業では、人手不足が深刻な惣菜製造業でロボット導入を進めていくために、次の2つを必要としています。
・現場に導入しやすい小型ロボットの開発
小型で移動させやすい重量・形状で、人と一緒に現場で稼働しても安全なように造られているほか、ネジが未使用だったり、食品に触れる部分(ハンドなど)が、取外し可能で衛生管理しやすかったりと、異物対策や衛生管理が容易な仕様で、食品工場にマッチしたロボット。
・ロボットフレンドリーな環境整備
現場への導入コスト低減につながることから、ロボットが稼働しやすいよう、食品製造者がロボットに合った現場環境を検討・構築。
また、惣菜の盛り付け作業が本取り組みに選ばれた背景には、
・惣菜の盛り付け工程には多くの人手が必要
・食品製造において生産性が非常に低い工程
・人手の求められる一方、重労働・単純作業等から離職率が高く、人材が定着しにくい
と言った、惣菜製造現場でも人手不足が顕著な作業である点が挙げられます。
特に、重労働や単純作業である点については、先で触れたSDGs達成を妨げる一因になりかねません。
惣菜などの食品製造事業は、衣食住の生活の観点、そして人の健康の観点からも、社会的な意義や責任の大きな事業と考えられますが、それだけに、人身に関わる問題が起きてしまった場合、食の安全・安心とSDGsの両面において、企業の社会的な信用の失墜や、経済価値の損失を招いてしまいます。
その結果、企業から人材がさらに離れてしまう負のスパイラルを生じたり、場合によっては、業界全体のイメージが損なわれたりする可能性もあるでしょう。
人手を有し、かつ生産性の低い単純作業であるからこそ、率先して機械化や自動化を進めたい惣菜の盛り付け工程ですが、現実的には、惣菜の盛り付けをロボットが行うことは、次のような理由から実現困難となっていました。
・迅速かつ見栄え良く盛り付ける作業自体が難しく、またロボット化できても高価格になる
ポテトサラダのような、柔軟かつ不定形な食品の盛り付けは特に難しく、ロボットにとって作業しやすい盛り付け方や包装容器の形状など、作業環境の整理が必要。
・惣菜類は形や重さが均一でなく、品目も実に多様
ポテトサラダ、唐揚げ等、盛り付けを行う惣菜の形状等が多様なうえ、それに合わせたロボットハンドの開発が必要など、ひとつの標準的な仕様に収まりにくい。
加えて、工場の規模によっては、実に百人単位の従業員が働いており、誰に、何時から何時まで、どこで働いてもらうかなどの作業シフトを組むだけで、多大な労力を要します。
このような背景から、今回の取り組みでは、
・惣菜の盛り付けを行えるロボット
・作業シフトを計算できる高性能コンピューター
人に替わって上記の作業や計算を行えるロボット等の開発だけでなく、これらを導入するにあたって、コストをより引き下げられるような環境、すなわち、ロボットフレンドリーな視点による現場の見直しが試みられています。
さらに、いきなり全自動化に進むのではなく、人と一緒に現場へ入れるロボットや、作業員のシフト計算を行う量子コンピューターを開発していることから、まずは、ロボットと人の両方が働いて、人の負担を軽くしていくといった、ひとつひとつ段階を踏まえた取り組みのようにも受け取れます。
ロボットの段階的な導入や、ロボットに合わせた現場構築など、ロボットの導入方法を多角的に検討する今回の取り組みは、以前自動化を諦めた企業が、ロボットの活用について再度検討するきっかけとなる可能性もありそうです。