2019年03月26日更新
少子高齢化による人口減少・東京への一極集中に伴い、現在、日本全国で大きな社会問題となっているのが「空き家問題」です。その一方で、外国人旅行客の増加に伴い不足しているのが宿泊施設。今回取り上げるのは、商店街の空き家をリノベーションし、民泊の宿泊施設として蘇らせる大阪の取り組みです。空き家を民泊施設として蘇らせる具体的な仕組みとはー。また、その運営を行う上で大切なこととはー。
PickUp記事:「商店街を「丸ごとホテル」化、東大阪で進む威風のプロジェクト「SEKAI HOTEL」 クジラ社の取り組みに市側も大歓迎姿勢」(民泊大学2018.09.03)
東大阪市は、大阪府中河内地域に位置し、人口は、大阪市及び堺市の両政令指定都市に次ぐ府内3位で、昭和59年の526,024人をピークに緩やかに減少を続け、現在490,663人(平成30年6月末)となっています。
ラグビーの聖地として知られる花園ラグビー場が存在し、また、日本有数の中小企業の密集地であり、高い技術力を持った零細工場が多数存在します。中でも、宇宙開発協同組合SOHLAは、人工衛星「まいど1号」の打ち上げに貢献しました。
最近では、東大阪市に所在する近畿大学が受験性の間で人気となり、競争倍率が高まっています。
東大阪市の市章
(引用:東大阪市HP)
訪日外客数の増加に伴い、来阪外客数の増加も著しく、過去5年間でその数は4.2倍にもなっています。大阪は、食文化、観光地としての魅力が大きく、ゴールデンルートにも組み込まれ、関西空港からのアクセスも良いという利点があり、人気を集めています。平成30年1-3月期の調査では、大阪への訪日外客訪問率は39.1%で全国1位となっています。
それに伴い、大阪の平成29年の客室稼働率(年間値)は83.1%、リゾートホテルに限れば90.6%となっており、ともに全国1位となっています。
来阪外客が増え宿泊施設の稼働率が上がれば、地域の事業者の収益が増える一方、宿泊できない旅行者が溢れれば地域の治安の悪化にも繋がるため、新たな宿泊施設の確保が社会的な課題となっています。
来阪外国人観光客数
(データ参照:大阪府観光統計調査)
日本全国において、現在、空き家の増加が大きな問題となっています。
空き家が増えることによって、公衆衛生の悪化、災害の増加、治安の悪化が懸念され、また、空き家自体の劣化が進みやすくなり、資産価値の減少の観点からも社会的な問題となっています。
平成25年の統計で、日本全国の空き家数は820万戸、空き家率は13.5%となっており、増加傾向にあります。
一方で、大阪府の平成25年の統計では、空き家数が68万戸、空き家率が14.8%となっており、日本全国の空き家率よりも高い結果となっています。
東大阪市の特殊性として、少子高齢化により後継者不足に喘ぐ町工場が廃業に陥りる例が見られ、再活用の難しい町工場の空き家対策が課題となっています。
大阪府の空き家数及び空き家率
(データ参照:大阪府H25住宅土地統計調査)
「民泊」に対する関心は、検索数から2015年9月頃から高まっていることが窺えます。その後、一定量の検索数が続いているが、日本での社会的な認知度が高まり、一時的なブームではなく、社会的なムーヴメント(動き)となっていることが分かります。
2018年2月末の大きな伸びは、民泊の宿泊施設を利用した殺人事件が起き、メディアが大きく取り上げたためのものと考えられ、大きな関心を買いました。
また、2018年の6月中旬の大きな検索数の伸びは、住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されたため、関心が高まったものと考えられます。
「民泊」キーワード検索推移
独自調査(出典:Googleトレンド)
現在、民泊運営のためには、ハードルが高い旅館業法の許可、営業日数制限のある民泊新法の届け出、特定地域でしか行えない特区民泊制度の認定、のいずれかを受ける必要があります。
民泊新法の施行によって、民泊予約大手のairbnbの登録部屋数が大幅に減り、訪日外客民泊利用割合が増加傾向にあった中で、影響を与えることは必至の状況です。オリンピック開催時の宿泊施設不足の解消の切り札であったはずが、このままでは不足が解消されないことにもなりかねません。
この問題の本質は、通例の行政の原則規制のやり方にあります。近隣への配慮など、対立利益への配慮は必ず必要ですが、規制によって民間の活動に制限を設ければ、経済は発展しません。
多くの人が法律の改善を望んでいます。
SEKAI HOTEL
(引用:SEKAI HOTEL Facebookページ)
そんな中、大阪で始まった新しい取り組みが「SEKAI HOTEL(セカイホテル)」。親会社であるクジラ株式会社が空き家を購入・リノベーションし、投資家に販売。投資家と運営会社のSEKAI HOTEL株式会社が賃貸契約を結ぶサブリース契約方式を採用しています。投資資金は、8~10年で回収できる見込み。取り組みはまず西九条で始まりましたが、長屋や再建築不可の中古住宅が多い地区で用地取得が困難なため、大手ゼネコンやデベロッパー、行政が大規模再開発を進められず、この点に中小企業やベンチャーが入り込む余地がありました。
本取り組みの基本的な考え方は「商店街を丸ごとホテル化する」というもので、一般のホテルが持つフロント、宿泊設備、物販、アクティビティの機能を1つの建物に収めるのではなく、複数の再利用空き家に分散化。これにより、商店街やその周りの人々の暮らしすら観光コンテンツになり、訪日外客が日本人の日常を体験できるようになっています。
こういった取り組みで重要なことは、近隣住民の理解です。説明に説明を重ね、地域貢献活動を同時に行うことが必要です。この点、SEKAI HOTELも同様の苦労をしたようです。
本取り組みの素晴らしさは、空き家問題と宿泊施設の不足の問題を同時に解消する点が挙げられます。この仕組みを活かせば、同様の問題を抱える全国の地域の活性化を図ることができるのではないでしょうか。また、この仕組みを地方農村地域に応用することも考えられ、今後に期待です。
2017年度訪日外国人消費動向(観光庁)によれば、日本を訪れる外国人の6割以上がリピーターであることが判明しています。
それに対して、日本の宿泊施設は、もともと世界の中では質の高いサービスを提供しており、少しずつインバウンド向けに対応してきており、訪日外国人の満足度は高いです。
だがその一方で、日本全国どこの宿泊施設に泊まっても、サービスが均質的で同じような内容が多く、記憶に残りにくいものになっています。
そこで、これからの日本のインバウンド受け入れ戦略としては、日本への再訪問の動機付けや、同地域への再訪問の動機付けとなるべく、リピーターの方の記憶に残る宿泊体験の提供や、宿泊体験そのものがアクティビティになっていく必要があります。
そのためには、宿泊施設の提供するサービスに「独自の売り」や「他との差別化になる特徴」が必要となってきます。
この点、北海道のうたのぼりグリーンパークでは、近隣に観光資源と呼べるものが少ないにもかかわらず、観光客の要望に応え続け、和服・浴衣体験、夏祭り体験、餅つき体験など、様々なアクティビティを用意し、外国人旅行客が殺到しています。
今回取り上げた東大阪では、再利用しづらい町工場の特殊性を逆手に取り、「工場に泊まる」をコンセプトに掲げ、普通のホテルとは異なる地域の独自性を打ち出しています。また、1つ1つの建物や部屋のデザインも敢えて統一することなく、何度泊まっても飽きのこない宿泊体験を提供することを心がけています。
このように、インバウンド対策と言っても、新たなフェーズ(局面)を迎えつつあります。大切なことは、外国語対応、決済方法の充実といった基本的なことを押さえつつ、旅行客の要望に応え、他の地域・コンテンツとの差別化を図り、いかにリピートに結び付けていくか、です。それが宿泊施設であっても大きな違いはありません。これからの変化の流れが楽しみです。