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長野 「地方の新たな起業支援のかたち」 コワーキングスペースの意義

2019年03月26日更新

 都会では一般的になりつつある「コワーキングスペース」。副業の解禁やフリーランサーの増加、社会的な起業の推進に伴い、その言葉を耳にする機会も増えてきています。今回取り上げるのは、そのコワーキングスペースを立ち上げた長野県塩尻市の事例です。コワーキングスペースを、「地方」の「自治体」が立ち上げる意義とはー。そして、その運営を行っていく上で行政に求められる姿勢とはー。

PickUp記事:「塩尻にシビック・イノベーション拠点「スナバ」 新たな事業、共に生み出し育てる」(松本経済新聞2018.08.07)

コワーキングスペースとは?

 コワーキングスペースとは、在宅勤務者や起業家、フリーランサー、出張が多い人などが、共同して利用する共有空間のことを指します。レンタルオフィスやシェアオフィスとは異なり、図書館のように、1つの空間でオープンに利用することが可能です。

 そのため、ビジネス立ち上げ時のコスト削減や利便性の向上のみならず、孤立しがちな前出の者たちが気軽にコミュニケーションを図れる機会となり、出会いを通じて新しい価値の創造に繋がるきっかけを与えています。

 ビジネスのIT化の中でテレワークや在宅勤務などの働き方の多様化に伴い、また、シェアリングエコノミーの発展とも相まって、一般的には大都市においてその施設の数は増加しています。

 日本においては、「コワーキングスペース」とのキーワードが一般に認知され始めたのは、20111月頃で、それ以来需要は拡大し続けています。

需要調査

独自調査(引用:Googleトレンド)

塩尻市の現状と取組

 そんな中、地方においては若者が望む収入を確保できる仕事の減少が過疎化の大きな原因となっており、事業や雇用の創出が大きな課題となっています。

 本記事の塩尻市も例外ではなく、国勢調査によれば、人口は平成22年(2005年)をピークに減少に転じており、その対策が急務となっています。

 そこで今回、地域課題の解決、新たな価値・新しい働き方、コミュニティー、事業の創出を目指し、塩尻市はイノベーションプラザ「スナバ」をオープンしました。 

塩尻市の人口推移

(参照:平成27年度国勢調査)

運営の必要性と課題の解消

しかし、地方都市においてコワーキングスペースを民間が運営することは、安定的な利用者数の確保が難しいこともあり、まだあまり一般的ではありません。

ここに地方のジレンマが存在し、事業創出のための常設の交流の場や立ち上げの際の事務所等の固定費削減の方策が必要であるにもかかわらず、コワーキングスペース運営のリスクの取れる民間事業者がなかなか現れません。

一方で、こういった施設の運営を行政単独で行うことは、問題が多く存在します。具体的には、施設利用において利用者の要望に柔軟に対応できずに、利便性が損なわれる場合があります。また、前例主義に陥り、開催されるイベント等がマンネリ化する可能性もあります。期待通りの効果が見込めないことが少なくありません。

そこで、本事例のように、コワーキングスペース運営において実績のある民間事業者が運営支援に関わることは、大きな意義があります。

また、地域おこし協力隊が運営に関わることにも大きな意味があります。地域おこし協力隊は、任期が3年と限定されており、その後は、起業などの取り組みを自ら行わなければならないため、こういった交流の場の運営に積極的に取り組むことが見込めます。

スナバ外観

(引用:スナバFacebookページ)

地方都市でコワーキングスペースを運営する意義

地方都市においても、これまでセミナーや地域の事業者による会合は頻繁に行われてきました。

しかし、セミナーは短時間の一方的な授業形式で終わるものが多く、一時的な刺激にはなるものの、継続的な取り組みには結びつきにくい嫌いがありました。

会合においても、いつも参加するメンバーというのは固定化し、昔からの関係性の中で新たな発展性のある取り組みは生まれにくいのが現状です。

さらに、起業したばかりの者や移住したばかりの者が気軽に参加しやすいコミュニティの受け入れ先がなかなか存在しませんでした。

そこに地方都市でコワーキングスペースが運営される意義が存在します。

まず、既存の事業者にとっては、コワーキングスペースでたびたび行われるイベントに参加することで、若手の新規起業家や移住者と出会える機会となり、自らの事業にとっての良い刺激となります。セミナーとは異なり、そういった者との何気ないコミュニケーションを通じて得られる新しい知見は、事業運営の効率化や拡大に結びつきやすい特徴があります。

次に、移住者にとっては、まだ地域に馴染んでいない段階で、気軽に利用しやすいコワーキングスペースが存在することで、新しいコミュニティを形成しやすく、その後の展開がスムーズに行くことが考えられます。

特に、地域おこし協力隊にとっては、任期満了後の活動の下地も作りやすく、定住後の活動の拠点ともなりえます。

第三に、本事例のように、運営におけるノウハウを持った民間の事業者が支援を行うことで、大都市の新しい知見や情報といったものが地方に伝わりやすくなります。

スナバの3つの機能

(引用:スナバHP)

他地域の事業支援の取り組み

他地域における起業支援の面白い取り組みとしては、岩手県八幡平市の起業志民Projectがあります。同市は、今後の起業においてはプログラミングができることが重要であるとの視点に立ち、スパルタキャンプというネーミングで、期間を設定し毎週土日に泊まり込みで無料のプログラミングの勉強合宿を企画・運営する取り組みを行っています。

また、IT技術を用いた事業というのは、遠隔で行うことができ、仕事が多く存在する大都会に居住する必要がなく、田舎における起業との相性が良いです。

同市の狙いとしては、このプロジェクト参加者の中から同市に居住し起業を行うものが現れ、定住化・雇用の創出がなされることを期待しています。

(引用:起業志民Project Facebookページ)

地方における起業支援の今後

こういった塩尻市や八幡平市のような新しい企業支援の形は、まだ始まったばかりです。新しい取り組みゆえに、今後様々な課題が生まれることが考えられます。

しかし、地方移住の促進や既存事業の活性化のために、この新しい取り組みの種を消滅させることなく、改善を重ねながら継続していくことが何よりも大切になってきます。

そのためにも、前例に縛られることなく、新しい技術やシステムを取り入れ、また、民間のノウハウを持った事業者の知見も活用することが求められてきます。

塩尻市は、コワーキングスペースの中で生まれた事業に対しては、投資をすることも今後検討するとのこと。

しかし、その投資においては、従来の補助金のように、資金利用の目的を絞り過ぎたものや、行政の意向に従わせるようなことはあってはなりません。

行政が口を出しすぎるとビジネスは上手くいかないことを十分にわきまえ、あくまで後方支援の形で行っていくことが重要になってきます。